師匠のバルエコ先生は、ギターのことについてはとてもシビアで厳しく、しかし、その厳しさが今とても良い教えになっていて、とても良かったと日ごろ感じています。


レッスンが始まる前、レッスン室に招き入れてくれるまでは「ハイ、ケイシ~」と言ってとても優しいですが、調弦を終えて曲を弾き始めると先生も本気モードです。


バルエコ先生は、生徒の横ではなく正面に座ります。したがって、楽譜を置いている譜面台は私の方には向きません。先生の方に向いているので、当然のごとく暗譜が基本となります。これが、仕上がってくる頃の曲ならば良いのですが、弾き始めの曲となると、それはもう大変です。

不安な個所の譜面を見たくても、譜面台が反対を向いていて見えないのです。

自分が在籍した当時は、バルエコのスタジオは8名の生徒がいるのみで、自分と妹を除いた6名の中にはフランコ・プラティノやアナ・ビドビッチがいたので、本当に日々練習に明け暮れていましたね。


初年の最初のレッスンでは、「今の技術のまま音楽だけ習いたいか、あるいは、技術も僕の下で学びたいか?」と聞かれたので、迷わず「技術から学びたい」と申し出ました。

入試では、ウォルトンのバガテルやソルを弾いたのに、一からやり直しです。

最初のレッスンから2回目のレッスンまでは、開放弦だけでした。そして同時に出された指示が「与えた課題以外に曲を弾いてはいけない」です。

この期間は1カ月以上ありましたが、その間はスケールと簡単なアルペジオのエチュードです。そこで徹底的に右手の技術を教えてもらいました。アルアイレは自分は問題は少なく、課題となったのはオートネーション(交互に弾く時の動作)とアポヤンドです。曲を弾かないで集中的に直した期間は2カ月弱でなんとかなりましたが、もちろん、どの曲でも常に気をつけなければならないので、現在でもチェックしながら練習をします。


技術の基本的なことをあまり言われなくなったら、曲の中で運指を研究することがよくありました。指使いがほんの少し変わるだけで、雰囲気が大分変るときがあります。

同時にフレーズ感など歌い方なども事細かくバルエコ先生は指導してくださいました。

そこには、全く妥協がなく、手を抜くことを先生は嫌がっていましたね。とまあ、生徒は皆プロ志望かすでに演奏活動をしている人たちばかりなので当然ですが。

日ごろレッスンで先生はほとんど褒めてくれたことはありませんが、とても嬉しかったことが3度ありました。

一つ目は、テデスコのソナタを弾いていた時。
 ソナタをバルエコのマスタークラスで弾くことになっていたのですが、その2日前のレッスンで運指を大きく変更されました。しかし先生は「あさってのマスタークラスでは、とりあえずこれまでの運指で良いからね」と言われました。

 そう言われたら、何がなんでも新しいバルエコの運指に修正して弾こうと思い練習。
マスタークラスではなんとか弾くことが出来ました。クラスの場では先生は何も言いませんでしたが、終わった後、運指を修正して弾いたことに大変驚いてくれたようで、自分のことのように喜んでくれました。


二つ目は、これも同じくマスタークラスで。


そして、何よりも一番嬉しかったのは、卒業試験としてのリサイタルが終わった後、学校の中庭で先生と写真を撮っていたときに言ってくれた言葉。
「もう少し、学校を続けて僕のところでレッスンしない?」
と言われた時には、何よりにも増して嬉しかったという思い出があります。

時には「何をしたいの?」と先の選択を迫られるような厳しいことも言われたりすることもありましたが、すべて先生の優しさなんだなあと感じる。
そして、自分も頑張らなければいけないんだなあと何かあるごとに思いますね。

ついてきてくれる生徒さん達に感謝です!!